ふとんのなかから

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫にかかったあとだらだらしている人のブログ

「人間はなぜ非人間的になれるのか」を読んで

ちくま新書『人間はなぜ非人間的になれるのか』
著者:塚原史
ISBN:4480058672
値段:714円(税込)
出版:2000/10
出版社:筑摩書房
※分かり易い啓蒙書だと思う。


一般的な見かたがおそらくそうであり私もこの本を読むまで誤解していたが「人=人間」ではない。人間とは「理性によって自己を完璧に制御・管理する者」のことであり、啓蒙主義から発明された近代の概念である。だが理性で全てが管理できるほど人は人間的には作られておらず、この矛盾が現代に向かって、非人間的分野への注目と台頭を生じさせる。


非人間的分野とは理性を超えた暴虐=世界大戦であり、人間的概念を持たない「(ヨーロッパから見た)未開」の人々であり、理性以外の内面世界=無意識であり、理性を持たない者(=狂人)の内面世界であり、複製された自己が理性を覆す近未来の世界である。


著者はこれらの、人間という概念が逆説的に非人間的な現実を浮かび上がらせていく過程を、戦争と芸術史を用いて説いていく。この本を読むまで実は自分が理性万能主義にとらわれていたことに気づかなかったので、私にとってこれは大変面白い読み物だった(全ての人が理性というOSで動いているわけじゃないんだね…)。


この本が出版されたのは2000年。まだ911以前の世界である。2004年現在、世界はどちらへ向かっているのか。答えは明らかだろう。個よりも全体が優先され、ネットワークの普及が膨大な複製を作り出し、地球規模での普遍の普及が人々の識別を差異にのみ求める。世界は理性を必要としない方向へと加速を強めている。著者のいう「幼年期の終わり後の世界」がやってくるのももう間近なのかもしれない。