『中国はなぜ「反日」になったか』を読む その2
- 作者: 清水美和
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2003/05/21
- メディア: 新書
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分かったことのまとめ
- 中国政治の特徴
中国政治はいつも主義と戦略性に裏打ちされている。したがって行動には常に何らかの論理がつきまとっている。だからその行動に至るまでの文脈と現在の事情を考慮することで素人判断でも先を読める余地があり、これにはシミュレーションゲームのような面白さがある。
逆に日本の政治は政治屋の自己保身と成り行きが原動力なので全く面白みがないし行動に対する意味合いが希薄で何を考えて何をしたのか全然見えないからちっとも訳が分からない。たぶん訳が分からないから「永田町通」的ないわゆる政治評論家が政治屋-国民間の通訳としての、何だか根拠のよく分からない発言力を持つのだろうと思う。異常にえらそうだもんなぁあいつら。
- 近年、突如として反日感情が高まった理由
江沢民が1995年から始めた愛国教育がきっかけ。愛国教育にはマルクス主義に代わる求心力を若者に植え付ける目的があったが、それはそれまで中国指導部が何とか押さえつけてきた民衆レベルでの反日感情を爆発させる副作用があった。
また開放路線で中国でもマスコミとネット環境が生まれたが、情報統制は厳しく自由な発言は許されていない*1。だが反日発言はこの規制の外であり党や社会への不満の捌け口が反日と化して繰り返し繰り返し報道され、反日感情はさらなる激発を見せる。同時にナショナリズムの高まりが「中国こそ最強」という偏った価値観を若者に浸透させ、反西側的な風潮が社会に蔓延してしまう。
しかしマスコミとネット環境から生まれるこの激しすぎる流れは中国指導部の計算外のものだった。せっかくグローバル経済の仲間入りができそうなのにこれじゃ西側からは冷たい目で見られるわ日本からの投資は遠のくわで踏んだり蹴ったり。つまり今の中国指導部ははっきりいって反日・反西側感情を持て余しているのである。パンドラの箱を開けてしまったといっていいだろう。
だからいわゆる「歴史カード」は実は今、日本側の方にあるのである。中国高官からたびたび発せられる「靖国に行くな」という命令口調は「お願いだから行かないで」という強い懇願の裏返しなんだろうと私は思う。
- 最近の動き
先月だか胡錦濤が小泉と会談したというニュースを聞いて「おや?外交は裏番長・江沢民の分野じゃないの?」と思ったら江沢民は今年になって完全引退したらしい。訒小平が死ぬまで党の実権を離そうとしなかったのに比べると信じられないような違いだ。これはまさに江沢民がバカみたいに推進した反日政策が失敗に終わったことの表れだと思う。
ちなみに胡錦濤は初の戦後育ちの指導者で、民衆の反西側運動を収束させるための矢面に立たされたこともあるので民族主義が国益にならないことは知っている、らしい。この人と仲良くなれれば日中関係もうまい方向に向かうと思うんだけどねー。まぁ全ては小泉の胸先三寸だわな。
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胡錦濤の分かり易い(かもしれない)補足:
何年か前にアメリカの偵察機が中国領空に侵入して中国の戦闘機と接触事故を起こして拿捕される事件があった。あのとき両国間に何の政治的衝突も起こさせずに事件を収束させたのが胡錦濤。問題点の見極めと穏便に終わらせるための実務的な能力に長けているらしい。あのときはあまりにもスムーズに事件が終わってしまったんでびっくりしたのを覚えてる。