ふとんのなかから

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「ジェニーはティーン☆ロボット」とは その1

原題「My Life as a Teenage Robot」(米・2003/08/01〜)
制作…Frederator Studios
日本放映…
シーズン1先行放映2004/12/29〜2005/01/04
シーズン1本放映2005/01/08〜2005/02/19
シーズン2放映2005/09/10〜

作品概要と監督のロブ・レンゼッティについて

ジェニーはティーン☆ロボット」(以下ティーンロボット)は、十代の少女型ロボット・ジェニー(正式名称Global Robotic Response Unit XJ9)がスーパーヒーローとして地球の平和を守りながら、ティーンエイジャーの生活も楽しもうとする姿を描く、新世代のカートゥーンである。放映はニコロデオン。「パワーパフガールズ」(以下PPG)に端を発するいわゆる”戦う少女モノ”カートゥーンの系譜に位置する作品だ。視聴ターゲットはまさしくティーンエイジャーで、ジェニーはトレモートン高校に通う女子高生と設定されている。またジェニーは目の大きなたいへん可愛らしいロボットにデザインされており、スーパーロボットの少女が高校に通うというマンガ的な設定も相まって日本人には取っつきやすいカートゥーンになっている。


ティーンロボット」は元々、ニコロデオンの若手作家の登竜門番組「Oh Yeah! Cartoons」のシーズン2の一作品だった。そのときのタイトルは「My Neighbor was a Teenage Robot」(以下MNwaTR)というもので、一話だけ制作され2000年に放映された。そしてここで好評を博したことであらためてスピンオフ作品として制作が開始され、タイトルが「My Life as a Teenage Robot」(以下MLaaTR)になり、2003年から放映が始まったのである。この際タイトルだけでなく登場人物のキャラクターデザインと性格にも変更が加えられ、より親しみやすいキャラクターになった。特にジェニーのデザインはより洗練されたものになっている。なお「MLaaTR」の第一話のストーリーとカット割りは「MNwaTR」とほぼ同じ。


制作者のロブ・レンゼッティ(Rob Renzetti)は「PPG」のクレイグ・マクラッケン(Craig McCracken)や「デクスターズラボ」のゲンディ・タルタコフスキー(Genndy Tartacovsky)と同じく美術専門学校カル・アーツの出身。卒業後は彼らと同じくハンナ・バーベラに入り「トゥー ストゥーピッド ドッグス」や「デクスターズラボ」などカートゥーン・ネットワーク向けの作品に参加していた。しかし1997年になると前述の「Oh Yeah! Cartoons」で作品を発表するためニコロデオンに移籍する。それからまた2000年にカートゥーン・ネットワーク・スタジオへ移り「PPG」「サムライジャック」に参加したのち、2002年に「MLaaTR」を制作するためフレドレター・スタジオに加わり、2005年現在に至っている。なおフレドレター・スタジオは、ハンナ・バーベラの社長だったフレッド・セイバート(Fred Seibert)が1997年にハンナ・バーベラから独立して興した会社で、主にニコロデオン向けの作品を作っている。代表作は「チョーク・ゾーン」「The Fairly Odd Parents」など。


レンゼッティが「MNwaTR」を制作するにあたっては次のような裏話がある。「PPG」が元をただせばマクラッケンの学生時代の作品であるように、レンゼッティにも学生時代から暖めている企画があった。それは「ミーナと伯爵」(Mina and the Count)という作品で、小学生の女の子と吸血鬼が友達になる話だった。レンゼッティは自分の作品も「PPG」のようにシリーズ化するものと思っていたが、カートゥーン・ネットワークの若手発掘番組「What a Cartoon Show」でもニコロデオンの「Oh Yeah! Cartoons」でも局側の目に留まることはなかった。特に「Oh Yeah! Cartoons」では5本も制作したのにニコロデオンからは相手にされず、レンゼッティは疲れて「ミーナと伯爵」の制作をやめてしまう。だがフレッド・セイバートはニコロデオンにレンゼッティを推薦し続け(「Oh Yeah! Cartoons」の制作母体はフレドレター・スタジオだった)次回作へ向けて彼に一週間の考慮期間を与える。そこでレンゼッティは三つの企画を考えるが、そのうち一つが「MNwaTR」の元となる作品だったのだ。


ちなみに「Oh Yeah! Cartoons」は2005年9月現在、日本のニコロデオンで土日に放映されている。「MNwaTR」「ミーナと伯爵」の他にもレンゼッティがニコロデオンで最初に制作した「X-Files」のパロディアニメ「F-Tales」や「MLaaTR」の美術監督アレックス・カーワンと組んで作った「Magic Trixie」が視聴可能だ。


レンゼッティが主人公を「ロボットの女の子」という、カートゥーンには珍しいタイプのキャラクターにした理由は明らかではない。しかしこれには彼自身の趣味が大きく影響していると思われる。彼はしばしば自分の名前を「Robot renzetti」ともじって表記するほどロボットが好きなのだ。それは作品にも反映されていて、彼が制作した「デクスターズラボ」のエピソードにはロボットが登場する次の二編がある。第1話「戦え!ママロボット」(Maternal Combat)と、第15話「ロボットの恩返し」(That Crazy Robot)だ。特にディレクターと脚本を兼務している「戦え!ママロボット」には女性型ロボットが登場し、彼の嗜好を如実に表すエピソードになっている。


ティーンロボット」は新世代のカートゥーンでありながらいわゆるジャパニメーション的な演出はない。むしろ見る者にはとてもクラシカルな印象を与えるはずだ。それは美術設計に要因がある。「Animation World Network」のインタビューでレンゼッティは次のように答えている。(本作の、淡い色の背景に太い線のキャラクター、というデザインは何かの影響なのかと聞かれて)『私と美術監督のアレックス・カーワンは、30年代の主にフライシャー・スタジオのカートゥーンと50年代のUPAスタジオの作品が好きなんだ。だからMLaaTRには30年代の様式に”より平面的なデザイン”を組み込むことにした』。つまりジェニーが三次元的要素を感じられないメカという描かれ方をしていたり、背景がわざと遠近感を無視したものだったりするのは、古典的カートゥーンへのオマージュだったのである。「ティーンロボット」は古くて新しいカートゥーンなのだ。また背景画にはアール・デコの技法も使われていて、レンゼッティはそれを「フューチャー・デコ」と呼んでいる。他にもタイトルバックにロシア・アバンギャルドの技法が使われるなどしており、これらはフレドレター・スタジオの技術的レベルの高さを表している。


レンゼッティはまたジェニーのボディーカラーについて次のように話している。『半透明の薄緑というジェニーの色は、いわゆるロボット然としたグレーのような色でないものを求めた結果だった。私たちはジェニーを金属よりなめらかな、ハイテクでできたプラスチック製とみなしていたんだ。デザインができた頃ちょうど同じような色の最初のimacが発売されたけど、私はそれをパイロット版(MNwaTR)を見たアップルがインスパイアされて作ったんだと思いこむのが好きだった』。若き制作者の自意識過剰ぶりがほほえましいエピソードである。

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解説:
同人誌「TOON GUIDE2」に寄稿した「ジェニーはティーン☆ロボット」の解説の前半部分です。サークル主催者様に許可をいただけたので掲載することにしました。思えばティーンロボットに関してきちんとした形でまとめた文章はネット上になかったのでちょうど良いでしょう。


レンゼッティに関してはこれを書いたのちに「ハンナ・バーベラはレイオフで辞めさせられた」ということを知りました。アメリカのアニメーターというと会社の都合よりも自分の自由意思であちこちのスタジオを出入りしている印象があるのでちょっと驚きです。あとあらためてレンゼッティの製作した話に注目して「デクスターズラボ」を見たところ学校の、特に教室のシーンがよく出てきてくることに気づきました。作風というのは変わらないものなんですね。