ふとんのなかから

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫にかかったあとだらだらしている人のブログ

Song of the Sea

この前、東京アニメアワードフェスティバル2015でトム・ムーア監督の「Song of the Sea」を観てきました。五日の間に二回も。二回も観たのはもちろん感動したからです。優れた物語に触れた時の感動には二つの種類があると思います。一つ目は物語の中の要素が有機的につながった際に感じる感動。そして二つ目はそれを超えて心と魂を揺さぶられた際に感じる感動。これは後者の部類の映画です。しっとりとして緻密な美しい映像、硬質で透明感のある効果音、家族の再生を描く切ない物語、そこに素朴でやさしい歌が重なった時、なぜだか分からない涙がとめどなく溢れてきます。これはそういう映画です。


日本語で書かれた正しいあらすじがどこにもないのでここで書こうと思いましたが、序盤から色々な伏線がちりばめられているためどうにも書けないので断念しました。というわけでここにはこれから観る方々へのポイントを記しておこうと思います。


・物語のキーとなるキャラクターは妹のシアーシャですが、主人公は兄のベンです。
・「セルキー」はアザラシから人間の姿になれる妖精ですが、妖精の白いコートを着なければ変身できません。セルキーが日本の羽衣伝説を思わせるのはここから来ています。
・「魔女のマカが息子の巨人マクリルの悲しみを瓶の中に封じ込めマクリルは石になった」という神話がストーリーの柱となっています。これは感情を巡る物語でもあります。
・どこかに「ブレンダンとケルズの秘密」のアシュリンがカメオ出演しています(すごく分かりやすく!)。


しかし本当に完成させるとは驚きましたね。五年前に「アザラシに変身する最後の人間の物語を作る」と聞いた時は正直大丈夫なのか商業映画になるのかと思いましたが、それがこんな神話とエンターテイメント性を兼ね備えた傑作になるとは。トム・ムーア監督の手腕恐るべし。古き良き日本アニメの子孫のようなアニメがアイルランドに誕生したということも含めて本当に驚異的なことだと思います。なぜ日本の映画業界がこの映画を正式上映しないのか、DVDを発売しないのか全く不思議で仕方ない。アイルランドには有能な映画人がいて、日本には無能な映画人しかいないんでしょうか。困ったものです。