ふとんのなかから

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫にかかったあとだらだらしている人のブログ

ジェニーはティーン☆ロボット ファンフィクション(1)

「LIFE OF ME WHO REVERSED」 その1


トレモートン郊外に建つ、豪奢ながら古びた一軒家。夕日が差し込むその三階の部屋で、今日もジェニーとウェイクマン博士は親子喧嘩の真っ最中だった。
「もう!何でいつもあたしのやりたいことをやらせてくれないの?!」
ジェニーは赤ん坊が駄々をこねるようにわめき散らした。しかしウェイクマン博士は両手を腰に当てて、一歩も引く気配は見せない。
「だって前から約束してたでしょXJ9。今日は学校から帰ったら亜空間加速装置の実験をするって!」
ウェイクマン博士の手には大ぶりなピン止め状の物体…亜空間加速装置が二つ握られていた。
「お願いよママ〜、パーティーに行きたいの。ドンが招待してくれたのよ!いいでしょ〜今夜くらい〜」
ウェイクマン博士の頑固さにジェニーは思わず身を乗り出し、甘えた声で懇願する。でも”年頃の女の子にとってパーティーがどれほど大事か”という思考は、ウェイクマン博士の頭脳には存在しなかった。
「駄目よ!だいたい地球の平和を守るロボットがパーティーに行ってどうするの?私はそんなことをするためにあなたを…」
右手の人差し指を顔の前で振りながらとうとうと語るウェイクマン博士に、ジェニーはついにキレてしまった。
「こんなに頼んでるのに!もういいわ!何よこんなもの!」
癇癪を起こしたジェニーはウェイクマン博士の手から亜空間加速装置をひったくると、壁に向かって投げつけた。するとその衝撃で起動スイッチが入ったのか、亜空間加速装置がヴ、ヴ、ヴと振動し始めた。そして振動はみるみる大きくなり、まるで局地地震のように部屋全体が揺れ出した。
「大変だわ!空間が干渉し合ってる!」
ウェイクマン博士の只ならぬ様子に思わずジェニーは尋ねた。
「ええと、何がどうなるの?!」
「この辺一帯が消滅するのよ!」
ウェイクマン博士は叫ぶと手近なところにあるコンピューター端末に飛びついた。振動はもう家全体をあらゆる方向に揺すっている。
「XJ9!あなたがコントロールするしかないわ!早く装置を髪につけて!」
亜空間加速装置は超振動により青い光を発し始めている。あまり時間がないことは一目瞭然だった。ジェニーは装置に向かってダッシュするとこれを両手でつかんだ。
「うあ”あ”あ”あ”あ”あ”」
超振動に巻き込まれたジェニーは苦悶の声を上げた。青い光に包まれたジェニーの輪郭は振動でぼやけてよく見えない。”地震”はブラッドの家より向こうにまで広がっていた。
「髪につけるのよ!マニュアルをあなたのメモリーにダウンロードするわ!コントロールして!」
ウェイクマン博士は目の前のキーボードのEnterキーを思い切り叩いた。同時に振動は最高潮に達し、ウェイクマン博士はコンピューター端末から引き剥がされ部屋の向こうに吹き飛ばされた。そして青い閃光が部屋中に広がった。
「…」
ウェイクマン博士はしばらく気を失っていたが意識を取り戻すと、頭を振りながら起き上がった。部屋の中はハリケーンでも通り抜けたようにメチャメチャに物が散乱している。だがジェニーの姿はどこにもなかった。
「…XJ9?…XJ9?」
ウェイクマン博士は胸の前で両手を組むと、窓の向こうを眺めながらつぶやいた。
「亜空間に入ったんだわ。…無事でいてジェニー」
部屋にはいつの間にか月明かりが差し込んでいた。


〜続く〜